【前編】1 BBLターンキー醸造システムの台頭/Rise of the 1BBL TurnKey System

2020年1月26日

クラフトビール 醸造設備 ターンキー

ご存知の通りアメリカではビールのホームブルーイングが盛んだ。

2017年の段階で、アメリカン・ホームブルーワーの人口は推計110万人ほど。

自分も含め、これらの人々だけで年間1億7000万リットル近いビールが醸造されている。

日本のビール生産量は発泡酒等も含めても5.1億リットル程度なので、ちょうどその1/3に当たる量がアメリカで自家醸造されていると言われれば、アメリカ・ホームブルイーイング界のスケールの壮大さが感じとられるかもしれない。

アメリカ国内で一年間に生産される全ビールから見ても、その約1%、つまり同国で消費されているビールのなんと100杯に一杯はホームブルーイングという計算になる。

最近では既にアメリカのホームブルーイング人口はピークを打ったと言われているが、それでも100万人は日本で言えばカーシェアリング市場とほぼ同サイズ。

ビジネス大国アメリカで、こんな規模のコミュニティーを無視するわけがない。

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事実、ここ10年で数多のホームブルーイング・ビジネスが誕生している。

特に醸造機器メーカーの成長は目覚ましく、ちょっと挙げただけでもBlichmannやSs BrewTech, Spike Brewing, Stout Kettlesなどが誕生している。

これらの機材メーカーが誕生する以前のホームブルーイングといえば、丸ごとの七面鳥をフライにする際に使う「ターキフ・ライヤー」と呼ばれる寸胴鍋とプロパン・バーナーの組み合わせでお湯を作り、クーラーボックスでモルトのマッシング、再度フライヤーでボイルして「カーボイ」と呼ばれる伝統的なガラス製容器の中で発酵させるという原始的な仕込み方法が当たり前だった。

ナイロン・バッグやバズーカと呼ばれるチューブ状の網でのスタックスパージは日常茶飯事。ボイルが終われば20kg以上、100℃近いケトルを大量の氷をはったシンクに浸して冷却。

30℃程度に温度が落ちたところようやくカーボイにサイフォンを使って移し替え。発酵温度はなすがまま。

こんな原始的なビール造りが長らく続いたが、現在ではブルーイングのためにデザインされたいわゆる「purpose built」の機材が数多く市場に出回っている。

中にはPIDによって細かく制御された熱源を用いて仕込みを行い、発酵には加圧可能なコニカル発酵槽で発酵を行う、プロ顔負けの醸造方法がアメリカ・ホームブルーイング界に急速に普及してきている。

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詳しい説明は今後に譲るが、特にこの1〜2年で発酵温度を精密に管理できるホームブルーイング向けグリコール・チラーが数社からリリースされており、家庭では夢のまた夢と思われた冷温貯蔵による本格的なラガリングももはや当たり前になってきている。

そういう意味でホームブルーイング業界とプロ・ブルーイング業界の境界線は限りなく曖昧になってきていると言えるだろう。

その象徴とも言えるのが次回レビューする「1BBL ターンキー・システム」だ。

1BBLとは液量1バレルのこと。ご存知のようにアメリカでは今でもマイルやポンドといったいわゆるポンド・ヤード法に基づく計量・計測単位が用いられているが、「バレル」もその一つ。

石油生産量によく用いられる「バーレル」と語源は同じ。

どちらも英語では「Barrel」つまり「樽」を意味している。

とはいうものの、石油の「バーレル」とビールの「バレル」では容量が異なっていて、石油の方は1バーレル=42ガロン、ビールやその他の液体では1バレル=31ガロンとなっている。

1ガロンは約3.8リットルなので石油1バーレルはおおよそ159リットル、対してビールは119リットルということになる。

石油の方は教養程度としても、ビールに関しては今後様々なところで出てくるので、ガロンと共に(1ガロン≒3.8リットル、もっとざっくり丸めて4リットルでもいい)、1バーレル≒119リットル(もしくは120リットル)とぜひ覚えておこう。

ちなみに略語は一般的にガロンが「gal」、バレルは「BBL」だ。 ということで1BBLのシステムは仕込み量がおおよそ120リットルのシステムということになる。

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現在複数のホームブルーイングメーカーが1BBLシステムをリリースしているが、この背景が面白い。

1BBLシステムを使って仕込むと一回で350ml換算で約300缶強のビールができてしまい、とてもではないが一個人が消費できる量ではない。

そもそもアメリカでは一人当たりの年間生産量の上限が100ガロン(1家庭当たりでは200ガロン)と決められているので、年間僅か3回しか仕込めないことになってしまう。

つまりこれらのシステムは個人向けではないことは明らかだ。

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狙いは小規模クラフト・ブルワリー。アメリカでは小規模なブルワリーでも通常は15bbl程度(≒1800リットル)の仕込みサイズが一般的。

このクラスのブルワリーは定番商品を揃えるよりもより頻度高く新しいビールを提供することが求められるため、継続的にレシピ開発が必要となってくる。

まさかそのために2000リットル近いシステムで実験醸造をするわけにもいかないため、比較的仕込みサイズの大きいホームブルーイングで長く用いられてきた、「ケグル」と呼ばれる改造ビール樽を使っての実験的な仕込み、つまりパイロット醸造をすることがこれらのブルワリーでは多かった。

ケグルであれば1/2bbl程度からの仕込みが可能だからだ。

このケグルをベースにマッシングから麦汁冷却までのいわゆる「ホット・サイド」(対して冷却された以降の醸造工程、すなわち発酵工程を「コールド・サイド」という)の醸造工程一式をパッケージ化し、高い再現性を可能にしたのが、もはや伝説的とも言えるSABCO社のBrew-Magicシステムだ。

数多くのクラフト・ブルワリーでも現在なおパイロット醸造システムとして重宝されているから、もしアメリカの小規模ブルワリーに訪れる機会があったら、少し中をのぞいてみるといい。

Brew-Magicのようにマッシングから麦汁冷却までの工程で必要な機材を一つのプラットフォームに載せてパッケージ化した醸造システムを良く「ターンキー・システム」という。

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英語で「ターンキー」は導入時の細かな調整作業が不要で、すぐに導入・稼働できる製品を指すが、Brew-Magicは文字通り導入が容易ですぐさま稼働できたし、キャスター付きでシステム一式簡単に移動ができたため、スペースに余裕がない醸造所では非常に重宝された。

またPIDを使用した高い再現可能性により、pilotシステムとしてだけではなく、クラフト・ブルワリーのスタートアップ機材としても使用されることが少なくなかった。デラウェアの名門クラフト・ブルワリー、「Dogfish」もBrew-Magicから始まったことは有名な話だ。 

このように実験醸造機材はそれなりの需要があるのだが、本格的な醸造機器メーカーがこのようなシステムを提供するには無理がある。

規模の全く違うケトルや熱交換器を新規に設計・製造するのはどう考えてもビジネスとして成り立たないからだ。

ところが近年のホームブルーイング向け醸造機器メーカーの著しい成長が状況を一変させた。

1BBL程度であればケトルや熱交換器、ポンプなどの性能やサイズはホームブルーイングの延長線上にあり、これまでに培ったノウハウや製造ラインを応用できる。

また、これらメーカーはコンシューマー向けとは言え、その顧客は往々にして「プロ志向」であり、プロ・ブルーワー向けの製品レンジを揃えることでコンシューマー向けメーカーとしてのブランド価値を一気に高めることができる。

メーカー自身にとってもこのような製品を足がかりに、ホームブルーイング市場だけではなく小規模クラフト・ブルワリー市場にも足がかりができることになり、まさに「一石三鳥」といった状況なわけだ。

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特に近年スタート・アップした小規模ブルワリーの多くはホームブルーワーとしてこれらのブランドに親しんだ人々も多く、ホームからプロへのシームレスな製品提供は企業戦略としても理にかなっているはずだ。

一方、1BBLのターンキー・システムは日本からみると別な意味で非常に魅力的だ。ブルワリーの業務は想像以上に多岐に渡るもの。

仕込み以外にも資材の搬入搬出や樽や瓶の洗浄にパッケージング、醸造機器や施設のクリーニング、タップルームの管理にビアラインの洗浄、さらには税務署が求める詳細な帳簿記入等、雪崩のように次から次へとやるべきことが降りかかってくる。

潤沢な投資力を持つビジネスパートナーでも見つけない限り、事業が軌道に乗って多くのスタッフが雇えるまではビールの仕込みを週一程度に抑えたいと誰しも願うはずだ。

発泡酒免許を取得し、年間6000リットルの目標を達成するにあたって、1BBLであれば理論上年間50回、つまり一週間に一回程度の仕込みサイクルで達成可能ということになる。

しかもこれらの機材は「ターンキー」と呼ばれるだけあって、導入時の設定や他の機材の別口での導入が最小限に抑えられている。

次回紹介するシステムはどれもカート付きで移動も簡単であり、計画当初に配置が完全に決まっていなくても簡単に配置レイアウトが変更できるのもありがたい。

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さらに大規模醸造向けのパイロット・システムというだけあって、様々な仕込みスタイルに対応した柔軟性の高い機材構成に加え、元来スケーラビリティを念頭に置いたきめ細やかな調整可能なシステムは、結果的に非常に高い品質再現性を担保する原動力になっている。

この市場は始まったばかりで、参入企業はまだまだ少ないが、各社ともホームブルーイングにおいて独自のアイディンティティを築いてきた猛者ばかり。

彼らのブルーイングに対するフィロソフィーがもろに反映されているのがこの1BBLシステムと言っていいだろう。

次回はそれらについてレビューをして見たい。

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