【スパイク】1 BBLターンキー解説ブログ!!/Spike Brewing 1 BBL Nano Pilot Brewing System

2020年7月19日

クラフトビール 醸造設備 スパイク

ドイツ・ミュンヘンと並ぶ世界的なラガーの聖地、ウィスコンシン州ミルウォーキー。

ハーレダビッドソンを初めとした工業の街でもある。現在でもMillerやPabst Blue Ribbonなどが本拠地とするこの都市で生まれたのがSpike Brewing社だ。

創業2012年とまだ10年にも満たないメーカーだが、地元ミルォーキーの州立大学で機械工学を修めたBen Cayaを筆頭に、高い技術を持った職人集団が生み出す高品質の醸造機器はHomebrewing界に本当の意味でのアメリカン・クォリティをもたらし、瞬く間に同業界の雄と呼ばれるまでに成長している。

Blichmannの革新性やホームブルワーの心をくすぐるSSBのプロ志向性といった華やかさはないが、Spikeのモノづくりはどこまでもユーザー目線に立った質実剛健かつ実用的なもの。

そのこだわりは完成製品のみならず素材であるステンレス自体にまで至り、米国の食品安全を監視する全米衛生基金(NSF)の安全認証を取得しているほど。

自ら醸造機器を作り上げてしまうようなDIY上がりの百戦錬磨のホームブルワーたちがこぞってカルト的な高い支持を表明するのも当然だろう。

SSBがホームブルワーたちが「自分がプロになる」ことを想像させる製品を作り出しているとすれば、Spikeはホームブルワーたちが「自分で機材を設計・生産するならこれが理想形だ!」という製品を世に生み出していると言えるかもしれない。

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特に溶接は「Spike品質」の核心と言ってもいい。

Spikeに限らずSSBもBlichmannもケトルそのものは中国で生産されている(だからこそホームブルーイング向けケトルの多くは異なるメーカーであっても見た目のみならず外寸が全く同じことが多い)が、他社と違いSpikeは全ての外部接続ポートやその他の溶接をミルゥオーキーで行っている。

以前のBlogでも記したように醸造機材の製造で最もクォリティが求められるのが溶接だが、醸造機器には衛生溶接と呼ばれるTIG溶接を利用した非常に高品質な溶接技術が求められる。

溶接工としてその技術を取得するのは並大抵のことではなく、醸造機器のみならず医薬産業や航空産業など、常に引く手数多の売り手市場。そんな熟練工が生み出す製品はまさにSpikeのプライドの塊だ。

そんなSpike社が世に問うのが1 BBL Nano Pilot Brewing System。

SSBと比べ、一見して質素な印象だが、そこにはブルワーの日々の活動に寄り添おうとするSpikeのフィロソフィーがまざまざと見て取れる。

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それを最も良く表しているのはケトルでも配管でもなく、なんとそれらが載るフレーム。ケトル底部とのスペースが十分に取られ、しかもシンプルな配管によって清掃を含めたメンテナンスがしやすい設計になっている。

さらにフレーム自体をよく見ると台自体がビアサーバのドリップトレーのような作りになっている。

トレーには美しい折り目がついたスロープが付けられており、トレーのどこに液体がこぼれてもフレーム左端にあるドレーン・ポートから排水できるようになっている。

トレーのサイズは大型で、各ケトルのバルブはトレー内側に収まるように設計されていることから、ホースやパイプの取り外し時やケトルの洗浄時も床を汚すことながない。

フレームについた大型のキャスターと合わせ、日々のブルーイングやメンテナンスで室内を汚すことがない。

使えば使うほどこの心憎いデザインの有り難みが身に染みてわかるはずだ。

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MTやHLTの構成やシーズヒーターによる電力加熱はSSBやBlichmannと同じ。MTの温度管理はSSB同様のRIMS方式。

一方、BKはSSBが採用するCalandria方式ではなく、伝統的な底部水平配置方式を採用。

ここにも派手さを求めないSpikeの流儀が見て取れる。

醸造機器にかかわらずこのようなシーズヒーターは全体が水没していないと過熱によって一瞬で壊れてしまう(各社シーズヒーターの形状はまちまちで日本では入手不可のため、一度壊れてしまうと米国からパーツが届くまで仕込みができなくなってしまうため、破損には細心の注意が必要だ)。

Calandria方式ではヒーター上部が水没して初めて1BBLとなるため、最小仕込み自体も1BBLとなるが、底部水平配置型では半分の1/2BBL(60リットル)やそれ以下でも仕込みが可能となる。

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これはSpikeのシステムがレシピ開発時のようなトライアルや小ロットコラボ、醸造体験などこのシステムが幅広い用途を想定していることを意味しており、その意味でも実用性は抜群だ。

配管はホームブルーイングで一般的な半透明のシリコンホースを採用。

SSBのようなハードパイピングは洗練された見た目の一方、中が見えず中央のバルブ群の開放の仕方によってどのような方向にも送液されてしまうため、バルブの開放状態について絶対に間違いがないようにしなくてはならない。

一方、シリコンホースは三方バルブを使用しない限り、一対一の接続となり間違いがない。

さらに内部を流れる液体をおぼろげと言え目視できるのでエラーは限りなく防げる。

そういう意味でSSBとは異なる直感的なブルーイング・エルゴノミクスといえるだろう。また、ステンレスパイプは洗浄時、内径上部に洗い残しが無いようバルブ全開で洗浄液を循環させなければならないが(各社とも使用するポンプは回転数の調整ができず、吐出側のバルブ開放度で流量をコントロールする)、シリコンホースではこう言った必要はほぼない。

HLTにはホースラックが用意されており、使用しないホースはすっきりと収納できる心遣いだ。

SSB,Spike,Blichmann全てケトルは簡単にフレームから取り外せるが、SSBはハードパイピングのため、バルブ・ツリーを含め全てを一旦外さなくてはならない。

ヘルール継手により、取り外しにツールは必要ないが、各パイプ・バルブはマージンのほとんどないタイトな接続になっており、一人でケトルを取り外すことは不可能だ。

その点、SpikeやBlichmannでは簡単にケトルの移動、単体での清掃等が可能になっている。

BKの特徴はなんと言っても蒸気コンデンサー。

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SSBやBlichmannのように蓋を外した状態で1時間におよぶ煮沸を行うと、通常15リットル程度の水分が蒸発してするが、排気能力が弱い環境ではブルワリー内に蒸気が充満してしまう。

日本人なら冬の室内での窓際の結露は誰もが経験するだろうが、人目につくように発酵槽を窓際に配置すると、結露しやすい一方で狭い空間のために十分清掃・洗浄することが難しくカビが生える絶好が環境となってしまう。

ブルワリー入退出時に踏み込み消毒バットなどによる室内衛生管理を心掛けるブルワーは多いが、そもそも室内にカビが生えてしまえばなんの意味もなさないのは明らかだ(実際、アメリカのブルワリーで踏み込み式の消毒バットを使用することはたとえSour系ブルワリーでもほぼない)。

蒸気コンデンサーは一種の「煙突」だ。

通常、BKからでる水蒸気は上部に強力なレンジフードを配置するか、BKそのものをファン付きのクローズドなシステムにして煙突を介して戸外に排気するが、蒸気コンデンサーはBKをクローズドにしつつ、煙突を逆J字状に床へと配管し、その途中で霧状の冷水を吹きかけること蒸気を液化して排出する装置だ。

蒸気は液体に相転移する際に凝縮することにより、コンデンサー内に負圧が生まれる、BKから水蒸気を吸い出しながら効率よくBKから排気が行える。

これにより過度な煮沸をしなくともDMSの十分な排気やホップのUtilizationを促しつつ、麦汁の蒸発を抑えることを可能にしている。

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Spikeによれば、1時間に及ぶ煮沸後の蒸発量はと蒸気コンデンサーを使用した場合、約8リットルとSSBのようなオープンシステムに比べ約半分に抑えられるという。

つまり蒸気コンデンサーの使用によって毎仕込み10リットル近い貴重な麦汁が余分に発酵に回せるわけだ。

近年、欧米では麦汁の煮沸時のメイラード反応によるオフフレーバーの生成や品質保持期間への影響が次第に明らかになってきており、以前のようなDMSの除去を目的とした「グラグラと」した煮沸よりも、「ふつふつと」とした煮沸の方がむしろ好ましいとする認識が広まってきている。

その意味で過度に煮沸しなくてもDMSを効率よく除去できる蒸気コンデンサーの使用は最先端のブルーイング手法と言えるだろう。

蒸気コンデンサーには心強い利点がもう一つある。

それは臭気が外に漏れないことだ。煮沸時、特にホップ投下後はBKからの排気に独特の臭気が含まれているが、これを戸外に排出することでこれを嫌う近隣住民とトラブルになることが多い。

蒸気コンデンサーならば、臭気は液体となってブルワリー内の排水溝へと流れていくため、臭いが戸外に漏れることがほとんどない。

これは特に都市型ブルワリーや住宅地に近いブルワリーにとって嬉しい特徴と言えるだろう。

コントロールパネルについてもSpikeは世界的な重電メーカーであるスイスABB社や仏シュナイダー社など大規模醸造機器業界標準のパーツを採用し、さらに米電気製品安全規格であるUL認証を受けるなど高信頼性・安全性を徹底的に高めた設計を行っている。

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電源は単相ないしは三相の指定が可能。また、ダブルバッチを想定した大容量電源オプションの選択が可能だ。

これにより、BKで最初のバッチを煮沸している段階でHLTで次のバッチの温水を作ることができ、ダブルバッチ時の大幅な時間短縮が可能になる。

このようにコントローラー・パネルが大型になることからパネルはSSBとは異なり本体マウント型ではなく、壁や別なスタンドを利用した独立設置方式を採用している。

最後にもう一つブルワーに嬉しいポイントを。発注時、ブルワリーのロゴのデザイン・データをSpike社に送れば、それ業務用の高品質ステッカーにして醸造機器のド真ん中に貼ってくれる。

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一般客向けのディスプレイ型ブルワリーを考えている方々なら必ずや嬉しいオプションなはずだ。

ここにもSpikeの「主役はあくまで使用者であるべきだ」というフィロソフィーが見て取れる。

写真引用/Pictures: 
https://spikebrewing.com/

Jimmy Yamauchi

この記事を書いた人:Jimmy 山内
"アメリカンクラフトビール&ウイスキーアドバイザー"

エディンバラ大学博士課程に在籍中、Scotch Malt Whisky Society 本部に勤務。ウイスキースペシャリストとして本部のバーで働きつつ、樽選定委員として初のジャパニーズウイス キーや1.100記念ボトルなど数多くのウィスキー選定に携わる。現在カリフォルニアワインの主要産地であるサンタ・バーバラに在住し、全米のウイスキーおよびクラフト・ビール関連のビジネスに携わる。アメリカのクラフトビールに徹底的にコミットした「Tokyo Aleworks」の統括プロデューサー。



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