醸造機材の選び方
クラフトビールの醸造機器を買うにあたっては気を付けなきゃいけないことって数多くありますよね!
ここでは購入する前にしっかり押さえておきたいサイズ、タンクの数、熱源の種類、どこで買うかなどをかいつまんで紹介します!
醸造のプロセスについてはかなりザックリ説明しておりますのであしからず。
あくまで機材の購入にあたり考慮した方がいい大枠のみ紹介させていただきます。
色々な名前のタンクが登場しますが、要は水がビールになるまでに連続して通過するステンレス製の容器の総称です。
あまり難しく考えず、ホームブルーイングでクーラーボックス使ったり、やかん使ったり、お風呂に氷貯めたりしてやっている工程をガチでビジネスでやるとこんな感じになりますくらいに思って下さい。
醸造に必要なタンクの選び方
ブルワリーを開業するに当たっては大きな複数のステンレス製のタンクが必要になります。
まず、温水を用意するための「ホットリカータンク」。
(「リカー」はお酒のことではなく、醸造に使用する水のことです。念のため。)
そこで温められた水は「マッシュタン(ラウタータン兼用)」というタンクに移され、のちにこのタンク内で麦芽と混ざりマッシングが始まります。
ビールの「素」となる麦汁をつくる麦芽の糖化(マッシング)です。
「糖化」ということからわかるように、マッシングの最大の目的は麦芽に含まれたデンプンを酵母が消費できるようにより小さな「糖」に切り分けること。デンプンは糖が何個も繋がった長い鎖のようなものですが、これだと酵母には大きすぎて口に入りません。「麦芽」にはこの長い鎖をチョキチョキと切ってくれる「糖化酵素」という物質が含まれていて、麦芽をお湯につけるとこの酵素が活性化。片っ端からデンプンをメッタ切りにして、酵母が食べられる糖にしていくのです。所要時間は約60~90分。ちなみにスチームを使う場合を除いて、マッシュタンには熱源がありません。コレ重要。直火や電熱器で熱を加えると、その部分がご飯のオコゲよろしく焦げちゃうからです。
ややこしいので「麦でおかゆを作るの巻」と覚えて下さい。
次に糖化された麦汁は麦芽カスと分別されボイルケトルに移動されます。コレが「ラウタリング」というプロセス。でも、鍋で出来たお粥をザルに移してもドロドロ過ぎてなかなか濾せないのと同じように、おかゆ状の麦汁もきれいに麦汁と麦芽カスに分けるのは難しい。そこでラウタリングと同時にホットリカータンクに残しておいた湯をマッシュタンの上から、文字通りシャワーのように振りかけてあげるわけです。これでマッシュタンの麦汁はすっきりさっぱりすすぎ洗われるというわけ。このシャワーを「スパージ」と呼びます。
そこでガスによる直火、スチーム(蒸気)、電気のうちのどれかの熱源によって熱せられ麦汁は沸騰させられます。
麦汁をグラグラと沸騰させること60分。そうすると、ホップの成分がしっかりと苦味を出すようになります。
ラウタリングしたときの麦汁は固形物もほとんどなく透明度も高いけど、60分も沸騰させるとなにやらヘドロ状に。溶けたホップはもちろん、麦芽に含まれたタンパク質が熱で固まったりするのです。これが「ホットブレーク」と呼ばれるもの。ホットブレークをそのまま熱交換器を通して冷ました後に発酵槽に送り込むと、熱交換器が詰まったり、出来たビールが濁ったりするので、これを分離するのが「ワールプール」という作業。英語でワールプールは「渦」のこと(そういう名前の洗濯機ブランドがアメリカにはあったりします!)。ボイルケトル下部のポートから麦汁をポンプで抜き出してそれをボイルケトル中部にあるワールプールポートから流し戻すことで、ぐるぐるぐるぐる渦を作るわけです。少し茶葉が入った紅茶のカップをスプーンでぐるぐるするとやがて茶葉がカップの底、中心あたりによってくるのと全く同じ理由で、こうやって麦汁を循環させてボイルケトル内で渦を作ってあげると、次第に固形物がボイルケトルの底でキレイな円錐形を作ります。ボイルケトルの下部ポートはケトルの脇にあるので、ワールプール後に麦汁を底から抜き出せば、円錐形に集まった固形物を避けてキレイな麦汁が得られるというわけ。
マッシュタン(ラウタータン兼用)と、ボイルケトル(ワールプール兼用)は大体隣り合わせに置かれ、その間に階段とプラットフォームが設けら人が上がれるようになっております。
そうすることでタンク内を上から覗き見ることができ、直接中の麦汁の状態を確認し、必要に応じて原料を追加することができます。
- ラウタリング:糖化された麦汁と、麦芽カスを分けること。
- ワールプール:ホットブレイクでできたタンパク質凝固物や、ホップカスを次の発酵容器に移さないで済むようにまとめること。
この一連の仕組みを総称してブルーハウスと呼ぶことが多いです。
醸造所が拡大していくにつれ単独のワールプールタンクを設けたり、ラウタータンを設けたりします。
各タンクのこなす役割を細分化することで醸造の効率が上がり、より多くのビールを醸造できるようになるというわけですね!
ボイルケトルでの煮沸が終わると麦汁は熱交換器で急速に冷却されて、発酵用のタンク(Unitank、Fermentor)に移されます。
酵母が快適に働ける温度まで麦汁を冷やしたら、麦汁に酵母を投入。麦汁の糖分を使って酵母が活動すると、その副産物としてアルコールが生み出されます。これが発酵です。その期間、約数日間から数週間。
酵母の活動が終了し、十分にアルコールが発生した後は出来たビールをブライトタンクへと移動。ここでビールを2℃くらいまでしっかりと冷却して、中に残っている細かい不純物をタンクの底まで沈殿させます。これがコールドクラッシュ。コールドクラッシュで目がチカチカするぐらい透き通ったビールの出来上がり。ついでにここで二酸化炭素も添加。これでシュワシュワのビールが完成というわけ。もし発酵用タンクにUnitankを使用するなら、発酵からコールドクラッシュ、そして二酸化炭素添加までできるので、ブライトタンクは必須では有りません。そういう意味でUnitankは日本では「兼用タンク」と訳されたりしています。
ブライトタンクとは熟成タンク、貯酒タンクとも呼ばれます。
これでようやくビールはケグや缶、瓶にパッケージングして出荷できる準備が整うのです。
タンクサイズの検討
日本の多くのスタートアップのブルワリーは400L(3.5 BBL)程の設備とそれに見合った発酵タンクを揃えてのスタートが主流です。
アメリカでは1パイントが473 MLなので400 L= 845パイント分となりますね。ちなみに本家イギリスでは1パイント=568ML。
このサイズですので電気を熱源としたブルーハウスの問合せが多いのも現実としてあります。
もしくは1 BBL(117 L)のシステムをダブルバッジで稼働させ、酒造免許の条件に見合った量を醸造するといった具合でしょうか。
新しいブルワリーがブルーハウスのサイズを決めるに当たっては経営方針や、ビールの売り方、醸造所のスペースなどとの兼合いが非常に難しいと言われています。
大き過ぎる設備でのスタートとなってしまうと初期費用が嵩む上に、走り出しの時期での1回の醸造の失敗が大きな痛手となってしまいます。
一方で、小さ過ぎる設備でのスタートでは需要に供給が追い付かなかったり、ホップの使用効率が相対的に落ちるので原材料コストが高く付いてしまうことがあったりします。
よく初めから大きな設備を入れた方がコストパフォーマンスは良いと聞くことがあるかと思いますが、まずは初心にかえり一つ一つ確認してみることが重要だと考えます。
まず、当たり前のことなのですがブルワリー設立予定地の物理的なスペースは十分かどうかを確認しましょう。
アメリカでは入口から入らずに天井に穴をブチ開けて入れることも多々あります。
※写真は入らなかったので天井を開けてブルーハウスを入れたやんちゃなブルワリー。
また、もし将来的に追加の発酵タンクやブライトタンクを置くスペースがないのであれば、大きな機材の導入から入るの当然賢明ではないと言えます。
そして、高さも要注意。
特に発酵タンク、ブライトタンクが機材の中でも最も高さがあるものになるのですが、これらを斜めに傾けても高さに余裕があり、搬入できるようなスペースを確保することが重要です。
輸入商材であればパレットに乗っているのでその分の高さもしっかり計算に入れましょう。
アメリカの大きなブルワリーでは天井が開くようにして、上からタンクを搬入することもあります。
一方、小さめのブルーハウスから始め、発酵タンク、ブライトタンクの容量をブルーハウスの製造キャパシティーの倍のサイズを用意するという方法もあります。
これらの倍のサイズの発酵タンク内は常にビールで一杯である必要はなく、需要の低い時期はタンクは半分程度の容量を使用、需要が高い夏場などはダブルバッチでぶん回し、タンクを丸々埋めていくという方法があります。
(発酵槽のジャケット部分がタンク全面をカバーしているかは要確認。)
この手法をとれば、いざビジネスを拡大したい時に新たに追加のタンクを購入するよりも大幅にコストを節約することができます。
必要なタンクの数
おおよその目安としては醸造を始めてから2~3年は追加する必要のないくらいの発酵タンク、ブライトタンクを購入しておくのが良いでしょう。
次の式を使うことで、年間の最大醸造ボリュームを計算できます。
発酵タンク数 × 発酵タンクの容量 = 同時発酵可能容量
年間総仕込み日数 ÷ 平均発酵所要日数 = 年間サイクル回数(全タンク入れ替り周期)
同時発酵可能容量 × 年間サイクル回数(全タンク入れ替り周期)= 年間総醸造量
ざっくりと計算をするのであれば、全体の80%はエールの醸造(発酵期間が短い)、20%はラガーの醸造(発酵期間が長い)、そして大体年間50週間(350日)醸造していると仮定するといいでしょう。(休暇やメンテナンスを考慮して。)
※あくまでアメリカの例を引き合いに上げているので日本のビール製造現場に見合った算出式が他にもあるはずです。ググってみて下さい。
ちなみにこれはビールをローテーションするのに十分なブライトタンクがあるという前提の計算となります。
もし、同時に様々な種類のビールを置きたいのであればブライトタンクと発酵タンクは同じ割合で用意するといいでしょう。
熱源の種類
ホットリカータンク、ボイルケトルを温める熱源の種類は大きく分けて3種類です。(直火、電気、蒸気)
直火(Direct Fire)
タンクの外を直火で温めることで、熱をタンク中の液体に伝導するタイプ
メリット :最も安価に導入が可能。10BBL以下に適したオプション。
デメリット:熱伝導にムラが出てしまい、麦汁を焦がす原因になることもある。空気中に熱が逃げてしまうため熱の伝わり方が非効率。10バレル(1170ℓ)以上の醸造規模には向いていない。
間接直火(Indirect Fire)
比較的新しい手法で、炎が別の容器を温め、熱せられた空気がタンクの周りにあるジャケット(隙間)に浸透し、中の液体を熱するタイプ。
メリット :こちらも安価で導入可能。ムラのない醸造が可能。
デメリット:電気、スチームに比べるとまだ効率は低い。こちらも10バレル以上の醸造にはあまり向いていない。
電気
家庭用湯沸かし器と同じ仕組みで、大きな電熱ヒーターエレメントがタンクの中に投入されている。
メリット :スチームより安価。非常に効率的に熱伝導を行える。静か。タンク外部に熱が漏れないため、直火に比べて室内温度の変化が少ない。
デメリット:場合によってはガスよりも電気の方が高くつくことも。三相電源の工事が必要となる場合もある。(電気代が高い。)こちらも10バレル以上の醸造には向いていない。
スチーム
15バレル(1760ℓ)以上の醸造規模を検討しているブルワリー向けではスタンダードタイプ。蒸気ボイラーで発生させたスチームをタンクの周りのジャケット内に循環させてタンク内の液温を上げる方法。
メリット :比較的効率的で温度が上がるまでの時間が早い。マッシュタンにも適用可能。これによってステップマッシュやマッシュアウトが可能になる
デメリット:最もコストがかかる。別のボイラーの購入が必要。ボイラーのメンテナンスが必要。
機材メーカーの選択
醸造容器を販売している機材メーカーは多数あります。
ただ、実際に容器を自社生産している会社は多くありません。
多くは中国や他の国から輸入しているのです。
自社生産を行わないことでコストを抑えられるものの、デザインの質、素材、造りが大きく異なってきます。
もし機材を輸入しているサプライヤーを選ぶ場合は、アメリカのエンジニアを採用し、しっかりと製造現場を管理、監督している、そして確固たる自社デザインを持つ会社を選ぶようにしましょう。
海外より輸入をする場合は購入の前に電気配線の基準が自分のブルワリーに合うこと、その詳細が英語で記載されていることを確認するのも重要です。
もちろん輸出入にかかるコストや船積み、通関のリスクなども配慮する必要がございます。
現在のアメリカのクラフトビール機器業界では、アメリカ国内でデザインされ、アメリカ国内生産であることに最も重きを置いています。
アメリカは特に食品関連機器に使用する鉄の基準が厳しく、造りもしっかりしております。
溶接に関しても専門資格を持つエンジニアを抱えているメーカーがほとんどであり、しっかりとクオリティコントロールがなされています。
それゆえ設備価格は他国製に比べ少し上がってしまいますが、安価な物に手を出し買い換える手間やコストに比べれば安く、必要な投資であると言えるでしょう。
溶接は良し悪しによっては目に見えない隙間や継ぎ目を生み出し、雑菌が溜まる元凶を生み出します。
洗浄、殺菌が95%をしめるビール作りに関しては出来るだけ滑らかで洗練された溶接が必要と言えるでしょう。
また、購入の前に必ず製造メーカーの評判はチェックしましょう。
直接聞けば既に納入済みのブルワリーを教えてもらえるので個別で連絡を取り見に行くのも手段です。
- どんな注文が過去にあったか
- 実績機材の件数
- 遅延などの納期問題はあったか
- サプライヤーとのコミュニケーションは円滑に行えるか
- またこのサプライヤーから購入したい方はいるか
- ポジティブなレビューが多いかどうか
まとめ
今回はアメリカの機材選定に関しての記事を紹介してみました!
日本ではもちろんサイズ感なども違うので参考になるところだけかいつまんで下さい。
色々な国で作られた醸造機器を使って作られるクラフトビール。
それぞれ一長一短あるかと思います。
しっかりと下調べし、周りのブルワリーへ相談した上で自分の満足のいく醸造機器を是非ご購入下さい!
アメリカ製醸造機器、持ってこれます!
はい!ここでガッツリ宣伝です!
基本的にアメリカで手に入る物は全て取扱い可能、業界最安値で輸出します!
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この記事を監修した人:Jimmy 山内
"アメリカンクラフトビール&ウイスキーアドバイザー"
エディンバラ大学博士課程に在籍中、Scotch Malt Whisky Society 本部に勤務。ウイスキースペシャリストとして本部のバーで働きつつ、樽選定委員として初のジャパニーズウイス キーや1.100記念ボトルなど数多くのウィスキー選定に携わる。現在カリフォルニアワインの主要産地であるサンタ・バーバラに在住し、全米のウイスキーおよびクラフト・ビール関連のビジネスに携わる。アメリカのクラフトビールに徹底的にコミットした「Tokyo Aleworks」の統括プロデューサー。
6 コメント
佐伯 護
設備費用はどのくらいかからでしょう
谷口史典
三重県でデイサービスを経営しております谷口と申します。今回隣の敷地で喫茶店兼週末のみバーを開設したいと思っています。そこで喫茶店内にビールの製造ラインを見せるように作れないかと考えています。導入等ご相談できればと思っていますので連絡いただければ幸いです。よろしくおねがいします。
谷口史典
三重県でデイサービスを経営しております谷口と申します。今回隣の敷地で喫茶店兼週末のみバーを開設したいと思っています。そこで喫茶店内にビールの製造ラインを見せるように作れないかと考えています。導入等ご相談できればと思っていますので連絡いただければ幸いです。よろしくおねがいします。
株式会社Grunmeal 松井聡
こんにちは、株式会社Grunmealの松井と申します。
弊社は食とスポーツを繋げる事をコンセプトに飲食(発酵熟成バル)とランニングステーション(ランステ)を併設した店舗を駒沢で運営しています。
ランステと聞いてもなかなか想像がつかないと思いますが、ロッカーとシャワールームがある更衣室が店内にあり、駒沢公園などを走るランナーさんの発着点として利用できるようになっています。
食事は真空調理のお肉料理やジビエなど、熟成させた低脂質なメニューが中心となっており、美味しさと健康両方にこだわって作っています。
また、地域な方やランナーさんがコミュニティーを広げられるように、ココロの栄養として『お酒』も楽しんでもらえるようになっています。
私自身が農大出身でビールと日本酒の開発を研究していたため、開発に携わって商品化された花酵母の日本酒『花華』をオープン当初からメニューに置いていましたが、昨年念願だった自分で作ったクラフトビールをメニューかしました。『駒沢エール』という名前でリピーター続出の人気メニューになっていて、今では当店の柱メニューになっています。
現在はブルーシェアという形で醸造を行っていますが、これを完全に自社醸造に切り替えたいと思い連絡させて頂きました。
駒沢店舗はすでに飲食店とランニングステーションが併設されているため醸造スペースを確保できませんが、登記上の本店である自宅の空きスペースに建物を作り工場化するために話を進めています。
そこで商品施用やバリエーション、設置に関する施工、価格など押して頂きたいと思いご連絡させて頂きました。
長くなってしまいましたが、ご確認宜しくお願い致します
佐々木健文
お世話になります。
現在千葉に在住しております。
クラフトビールを将来地元秋田で製造していきたいと考えております。
実験がてらに機材を揃えたいと考えているのですが、ご相談宜しいでしょうか?
どうぞご確認をよろしくお願いいたします。
佐々木
nguyễn khắc hoàn
Jimmy 山内様
初めまして。
HOANと申します,(ベトナム人です)
自分でクラフトビールを作りたいですが製造技術について教えて頂けませんか。
全工程の温度管理,材料の割合等。。。
ご教えて頂ければ幸いです
ホアン