【ブルワー必読】Kickin’ out the DO/缶充填現場のDO増加ポイントと対策方法

2020年11月09日

クラフトビール 缶充填 Wild Goose Filling カウボーイクラフト

前回に続きDOの話を進めよう。今回はWild Goose Filling社が2020年CBC(Craft Beer Conference)にて全米のブルワー、出展企業向けに開催した缶充填におけるDOコントロールのポイントに関するWebinarの内容をベースに、このブログの筆者であるJimmy山内が加筆・編集を加えている。

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ビール・パッケージングのタイプ

缶充填にダイブインする前に、まずビールのパッケージングのスタイルについてさらっとおさらいをしておこう。缶の充填スタイルは大きく分けて、ハンドパッケージ、マニュアル方式、インライン式、そしてロータリー式の4種類に分類される。

最初のハンドパッケージタイプは、タップからのクラウラーやグラウラーへの充填やオンデマンド充填などの方式だ。既に述べたようにこれらについては低DOはほとんど期待できない。やれることと言えばCO2ラインだけが接続されたCO2専用のタップを用意し、クラウラー充填前に容器のパージを行う程度だろう。最近では卓上のカウンタープレッシャー型缶充填器もあるが、時間がかかったり、作業が複雑で頻繁に持ち帰りが発生する場所では実用的ではないかもしれない。充填そのものも安定しない。結果的に賞味期限は非常に短く、もって1~3日程度だ。酸化は充填直後から急速に始まるが、数日以内には多くの消費者が風味の変化に気づくまでになる。このような理由から外販用途でのクラウラーの利用は当然おすすめできないが、仮に行った場合、その労働量は非常に高いものとなる点も理解してほしい。

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次に手動式のカニング・ボトリングマシン。魅力はなんといっても導入費用。個人経営のブルワリーでもさほど負担にならない程度だ。しかし、この手の充填システムのメリットと言えばここまでだ。100リットルクラス(≒1BBL)の充填でも苦行に近い。非常に熟練した従業員が集中して取り組めば安定したDOコントロールは可能だが、裏を返せばDOコントロールは充填する人次第。これは最初のハンドパッケージングにも言えるが、手動式パッケージングマシンでは充填クォリティのブレが大きいと見ておいたほうが良い。賞味期限は6ヶ月未満といったところだが、これも充填のクォリティ次第だ。

外販など本格的にパッケージングされたビールの流通を考えるなら、どうしても必要になるのがインライン式やロータリー式といったいわいる機械式充填システムだ。中でもおそらくこのブログを読む読者にとって現実的なのはインライン式・小規模自動カニングマシン(充填ヘッド数1〜何個でも)だろう。長所はなんと言ってもその低DO値と労働量。自動化により充填品質を圧倒的に安定させることが可能となるだけでなく、工程の各段階でDOを計測、調整、そして最適化することが可能なシステムでありいくつかのポイントをしっかりと押さえていけば非常に高いレベルでDOコントロールができる。無論、その対価として導入コストは高めになるが、Goslingのように極めて低コストで導入可能な機種も増えてきている。賞味期限の目安は業界一般の6ヶ月。

そしてロータリー式だが、これはもはや大手ビールメーカー向け専門のシステムと言え、価格も億を有に超えるレベルになってくる。しかし、ここで前回のメッセージである「移し替え=劣化」を思い出して欲しい。「充填機器のフェラーリ」であるCrowne社の5億円のロータリー・システムであろうと、より廉価なマニュアル式システムであろうと、充填時の酸素暴露は決して避けられない。移し替えによるビールの劣化は不可避なのだ。

①ブライト・タンク

パッケージングを一通りおさらいした後は、いよいよ具体的な充填におけるDO対策に話を移していこう。ここで想定している充填システムはWG社が扱うようなインライン式の缶充填システムだ。もちろんそれ以外のマニュアル式の充填システムであっても色々役に立つ情報が満載なので、しっかり最後まで読んでいってほしい。

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まずは充填の出発点となるブライト・タンクと外気との接点から。気をつけるポイントはタンクのハッチやセンサーコネクター、各種ポートのガスケット部分など。つまりタンク内部へのアクセスポイント全部だ。これらには必ずシールやコネクター、ガスケットなどの非金属パーツをタイトに「密着」させることで気密性を保っている。そのため、これらのパーツがしっかりと密着していなければ、たとえ液体は漏れずとも気体のやり取りが行われる可能性が出てきてしまう。それを念頭に置いて、目視で液漏れがなかったとしても、各ポイントが締まっているを手を動かしてきちんと確認しよう。特に忘れやすいのが、充填ライン稼働後の増し締めだ。開始時にしっかり閉めたと思っても、送液中のビールがラインを冷却すると当然各パーツは収縮するので、充填プロセス中も度々確認をして、必要なら増し締めることを忘れないようにしたい。ここがダメなら、これより下流でどんな努力をしてもDOピックアップは避けられない。

増し締めを確認したら、次はブライトタンクのヘッドスペースがCO2によって安定的に加圧がされているかを確認しよう。ブライトからの充填にせよケグからの充填にせよ、充填と共にビールが入る容器のヘッドスペースが増加していくため、それに比例してガスを送り込まないとヘッドスペース部分の圧力が変化してしまう。ヘッドスペースへの圧力はブライトから充填ラインへの送液圧力に直結するわけだから、ヘッドスペースの圧力が安定しなければ充填ヘッドにかかるビールの圧力が安定しないことになり、結果的に充填量の違いやDOの侵入を許してしまう。従って安定した送液はDOを含めたクォリティの高い充填に不可欠だと考えてほしい。

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もう一つ見落としやすい点が充填ラインの停止・再開のサイクルだ。充填が停止すればその時間だけライン内に留まっているビールは周りから熱を奪って温度が上がってしまう。そうすると当然それらのビールは充填時に泡を吹きやすくなるし、その後ブライトから流れてきたビールも温かくなったチューブや機材を通ることでそれ自体の温度が上がってしまう。そう、停止・再開を繰り返せばそれだけビールが無駄になり、DO値も高くなってしまうわけだ。理想はビール温度-2~0℃、溶存CO2量2.2~2.7vol(4.4~4.5g/ℓ)での安定した充填だ。充填時にビールが温まり揮発する結果溶存CO2が下がることを見据えて、充填時2.5volを達成するためあえてブライト内で3vol程度と高めに加圧しておくケースがアメリカの多くのブルワリーで見受けられるが、これは完全なCO2の無駄。まずはビール温度とライン取りの最適化を図り、目標溶存CO2量にできる限り近い状態でCO2添加することをゴールにしよう。

②送液ライン

次にホースやパイプ接続について。多くの醸造所がシリコンやBUNAと呼ばれる素材を使ったガスケット、ヘルール接続ガスケット(以下TC)を使用していると思うが、これらの素材、特にシリコンは耐摩耗性がお世辞にも優れているとは言えず、繰り返しの増し締め等によって驚くほど早く劣化してしまう。定期的なガスケット・シールの点検・交換を心がけ、特にブライトタンクやカニングラインについては見た目には大丈夫、と思えても半年に一回程度は交換していこう。そういう意味でも耐摩耗性・耐薬品性に優れたEPDMの使用をおすすめしたい。

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また、前回も述べたようにシリコンは非常に酸素を通しやすい材質で、その酸素透過係数はEPDMの約10倍、より高価なViton(FKM)の100倍近い。もちろんパッケージング時など送液時のチューブの接続など一時的な使用では問題にならないが、発酵槽など静置状態が長く続くような場所での使用では交換を考えていったほうがいい。事実米国クラフト業界ではシリコンからEPDMへの置換が急速に進んでいる。

また、CO2ラインや小型醸造所ではTCとシリコンホース間で接続されていると思うが、これらの固定にはねじ式クランプは決して使用しないこと。この手のクランプは実際に目にしてみるとよくわかるが、ネジを廻して締め上げていくと不均一に締まっていくため、ホースと継手との間に小さな隙間が生じやすく、そこからビールが外気と接してしまう。このような状況を防ぐためにクランプには必ずイヤークランプやステップレスクランプ(もしくはオイテカクランプ)と呼ばれるものを使用し、きっちりとチューブと継手を固定しよう。

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次にビール温度。送液の際はブライト内やライン内のビール温度を低いまま維持することがとても重要だ。ビール内に溶け込むことのできるCO2は温度によって大きく変化する。例えば3℃のビールとより低い温度のビールでは溶け込めるCO2の量は大きく違う。特殊な方法を取らない限り、送液中のビール温度は上がりこそすれ下がることはないのだから、それまで冷えたビール内でおとなしくしていたCO2は充填ラインに到達する頃には外に飛び出したくてウズウズしていると考えていい。ヘッドから出たビールはその瞬間それまでの閉鎖空間から開放され大気圧下に放り出される。当然中のCO2はビールを瞬時に泡に変化させながら四方八方へと飛び出していく。少しでも送液中の温度上昇によってCO2が揮発しないよう、ホースのライン取りや長さ、断熱を考えよう。例えばタップラインと同じように、細く長いラインではその間の圧力低下によって泡が少なくなるが、その反面熱を拾いやすくなる。特に地面は熱を蓄えやすいため、ホースを地面に這わせればその熱をピックアップしてしまう。猛暑が続く日本の夏は特に要注意だ。夜半すぎのアスファルトに手を当ててみればその暖かさにびっくりするだろう。

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ブライトから缶充填システムに送液する過程でのインライン型低温殺菌(パストリゼーション)を考えているなら、是非発酵槽とブライトとの間での低温殺菌を考慮した方がいい。ブライトと充填機の間で行うとDOのピックアップや送液圧のゆらぎをを引き起こす原因となる。

③ポンプとバッファータンク

ブライトと充填機までのライン距離が長い場合はポンプの使用も考えられる。しかし、できればブライトのヘッドスペースへの加圧によって送液を行いたい。ポンプはどうしてもビールに対して機械的な撹拌が加えられるため、DOのピックアップが発生しやすくなる。またビールが「荒れ」るため、泡の発生や充填機内でのDOピックアップも多くなる。どうしてもポンプが必要であれば低せん断・低回転のものを選ぶべきだが、ラインが長く、圧力低下が著しいといったケースであれば「バッファータンク」と呼ばれる中継タンクを利用するべきだ。WG社にもラインナップがあるので参考にしてみるとよいだろう。

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バッファータンクは充填機に流入するビールの送液圧をコントロールする、いわば充填用の「グラント」のようなものだ。ポンプに比べて特にインライン充填機の場合はその仕組み上、ビールは頻繁かつ細かな送液・停止を繰り返すので圧力変化が大きい。ロータリー式充填機の場合、基本的にはフロートボールによって半連続的に送液がなされるものの、ヘッド数が増えてくると圧力ムラが大きくなるため、バッファータンクを使用し充填機へと送り込まれるビールの送液圧を抑え、かつ一定にすることが望ましい(このことから、ケグからの充填は簡単ではあるものの、送液圧が変わりやすいため泡や充填ムラが発生しやすいことがわかるだろう。当然容器内のビール温度変化もブライトに比べれば外気の影響に左右されやすくなるため、いろいろとハンディが大きい方法だ)。また、ラインが長くなる場合送液されるビールの温度上昇を抑えるためにチラーや熱交換器の使用を考える必要があるが、その際もバッファータンクを使用し送液圧を一定にすることで充填状態を安定させることが重要になってくる。

④缶

次に缶の扱いとその洗浄を見ていこう。これは往々にして見逃がしがちなポイントだ。汚れた缶はそれだけ洗浄を必要とするので、保管時にそもそも異物の混入を許さないよう、カバーをしっかりとしておこう。また缶口の凹みは必ずといっていいほどDOピックアップのポイントとなってしまうため、保管中や移動中の缶については衝撃を加えないよう細心の注意を払って扱おう。もっとも、缶口のダメージは液漏れの原因となるのでそもそも使用を避けたほうがいいことは言うまでもない。側面の凹みについては、指で押し戻して何事もなかったかのように充填できてしまうことが多いと思うが、見た目は問題ないように見えても実際には微細な空間が残り、低容量充填の原因となる。これが原因で貴社のブランド価値や信用が毀損される可能性を考えれば、缶自体の金額は大したものではない。もったいないと思っても、どんどん廃棄してしまおう。

クラフトビール 缶充填 Wild Goose Filling カウボーイクラフトまた、前回も述べたが、脱気水を使用しない限り洗浄に使用する水には酸素が必ず含まれていることを認識しよう。一般的に洗浄は水だけで十分であり、過酢酸を使った殺菌の必要はない。時として酸素系洗浄剤を使用しているケースが見受けられるが、前回書いたようにこのような洗浄剤は酸素を含んでいる。また、缶洗浄機につながるホースを他の洗浄に流用している場合は、ホース内に残留する洗浄剤にも注意すること。残留洗浄剤がもたらす酸素量は非常に大きい。水を使用しないイオンエアー洗浄機の価格は手頃になってきており、この種の機材導入の検討もありうるだろう。

⑤インレットマニホールド

充填機までやってきたホースが各ヘッドへと分岐していく配管部が「インレットマニホールド」と呼ばれる部分だ。このマニホールドがビールの充填機側の流入ポイントであり、実質的にここからが「缶充填機」ということになる。一般的に接続にはTri Clamp(ヘルール継手)接続が使用されている。そのため全てのTCがしっかりと締まっているかを毎度毎度しつこいぐらいに確認しよう。特に流れ込むビールによって冷却されると緩みが出やすくなることを忘れずに。 

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もし流量計を使用している場合は、使用している流量計が液体用であってガス用でないことを確認しよう。結構見落としがちなポイントだ。もちろんここで使用されているシーリング材についても定期的に交換すること。これらのことはきちんとマニュアル化し、スタッフであれば誰でも同じレベルの品質管理ができるようにしておこう。

⑥CO2パージ

一言で表すなら、「パージは匠の技」。何度も練習し、どうしたら良くなるのか、物理法則がどのように働くのかを考えることが重要だ。例えば空缶に高圧洗浄機でビールを注いだらどうなるか、誰でも想像がつくだろう。同じ様にCO2を高い圧力で勢いよく缶に吹き付けても周囲の大気を巻き込むだけで、ほとんど効果は期待できない。一番良いのはやはりゆっくりと優しく缶底から注入することだ。こうすることで乱流を防ぎ、周囲の大気を巻き込むことを最小化できるからだ。そのためには圧力の高低だけではなく、流れ込むCO2の速度や圧力自体にムラがないことが重要になってくる。

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多くのブルワリーでは一つのCO2ボンベから様々なシステムにCO2を供給していると思うが、できれば別なボンベを用意するなど、充填用には独立したCO2供給源をあてがうことが望ましい。ケグのパージや洗浄など、断続的にCO2を使用しているとそのサイクルでCO2の供給にムラができるからだ。ローテクだがパージ完了の確認には目線を缶の高さに合わせて缶の口元からかげろう状にCO2がこぼれ出ているかどうかを目視したり、鼻を近づけて匂いを嗅いでみるが有効だ。

⑦充填

缶のパージが終わればいよいよ充填だ。もちろんこれも匠の技。まず覚えてほしいのは充填ヘッドについてだ。直感的ではないかもしれないが、残った場所がヘッドの外側であれ内側であれ、充填完了時にヘッドに残ったビールは大気を取り込み、次回の充填時にそれを缶内へと押し込んでしまう。そんなものは微々たる量と思うかもしれないが、侮るなかれ。3500Lのタンクにたった1Lの空気(1円玉一枚ほどの重さ)が入っただけで、DO値が100ppbも上昇してしまうことを思い出そう。充填ヘッドが取り込むO2の量も決して無視できないはずだ。そう考えればヘッドからビールが滴り落ちるような状況も避けたい。ビールの送液速度や圧力が大きければ充填後に抜かれたヘッドに残るビールも多くなる。同様に、充填ヘッドが缶へと挿入される際には周囲の空気を巻き込むので、できる限りゆっくりと挿入することが望ましい。もちろんこれは充填の時間効率にダイレクトに影響するので、品質と効率との最適バランスを見つけたら充填レート制限装置を導入してそこから逸脱しないようにしよう。

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充填は缶底近くからゆっくりと行う。まず缶底に少量の泡で大気とのバリアを作り、泡面下にビールを充填することで、缶内の気体を上部に押し上げるようにすることが望ましい。そのためWG社の充填機はヘッドの高さを多段変化させ、まず缶底で泡を形成しその後、常に泡の下で充填が行われるよう、充填中のヘッドの高さが液量に応じて変化するようになっている。こうすることでビールの飛散や過剰な泡の形成を抑える仕組みになっている。   

また、ヘッドを素早く挿入しないのと同様に充填後の閉じたヘッドを液面から素早く抜かない工夫も重要だ。素早く抜いてしまうとヘッドにまとわりついた泡が引きずられ、ちぎれた際に周囲の大気を取り込んでしまう。これがいわゆる「カエル目」と言われる大きな泡の原因だ。カエル目を破裂させないまま蓋をしてしまうと、大きなDOピックアップの原因となるためWG社の充填機では充填後の閉じたヘッドが缶上部で一旦止まる仕組みとなっている。「カエル目」か「きめ細かな泡」かの違いは充填の品質を判断するのにとても有効なサインだ。

 

⑧泡

泡の量も重要だ。泡が足りずに泡と蓋の間に空間ができれば、当然のことながらそこにはしっかりと大気が入り込んでいる。もったいないと思えるかもしれないが、缶から多少泡があふれたとしてもしっかりと泡の上に蓋が載り、周囲の空気をしっかりと「押し出す」状態を目指して充填することも重要だ。

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ビールの液温が低すぎたり生産量を稼ごうと速いペースで充填を行うと、泡が形成されないか、もしくは泡の膨らむスピードが充填速度に追いつかず缶の口元ギリギリまで液面が上がってきてしまうことになり、これでは蓋をした際に周囲の空気を缶内に閉じ込めることになってしまう。実際のところ、間違いなくこれがDOピックアップ最大の要因と言っていい。こういう場合はフォームパルスを使用したり多少液温を高めにして充填を行おう。

⑨蓋下ガス・インジェクション

充填後、蓋が被せられるまでの間にある装置が一般的に「ガス・トンネル」と呼ばれるものだ。充填時に缶が上がってくる泡によって缶内の空気は外に押し出されるわけだが、これだけでは十分にDOピックアップを抑えられないことはよく知られている(たとえ充填前にCO2パージをしても、だ)。そこで充填された缶の上にCO2を吹きかけて蓋が載るまでの液面(泡面)の上にさらなるCO2の層を作るのがCO2トンネルの役目だ。しかし残念ながら吹きかけるCO2圧力の調整が難しく、大抵の場合は上述のCO2パージ同様にむしろ周囲の空気を撹乱して、より多くのO2を取り込こむ結果となってしまう。ここでのキーワードは「過ぎたるは及ばざるが如し」。そのためWG社は長らくCO2トンネルの採用をためらってきたが、同社が開発した「DOバスター」により、より安定したCO2層の形成が可能になった。

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充填が完了した缶は矢印の方向からやってくるが、写真に映る櫛状のスクレーパーにより余分な泡が取り除かれ、同時にカエル目も破裂する。図Bでは同じスクレーパーが右端にあるが、そこを越えた缶はCO2トンネルへと移動する。上部のノズルが二つあることからも分かるように、ここでCO2は二段階でインジェクトされる。まず最初に被せるように優しくCO2を上から吹きかけ、その後ジェット状にCO2を吹き付けることで、さらに泡を散らし同時に周囲のO2も除去した上で蓋が被せられる。このような仕組みから、当然DOバスターと缶の高さ関係は重要なDOファクターとなる。   

蓋に関してもう一点ほど。もし手作業で蓋を被せる場合は、蓋に対して殺菌剤を使用しないようにしよう。脱気水でなければ殺菌水にはO2が含まれているし、酸化反応による殺菌を行うハロゲン系殺菌剤(例えばヨード系や塩素系殺菌剤)の場合、残った殺菌水によってDOに関係なくビールが酸化してしまう。

⑩缶の移動時間とその距離

充填が完了した缶が移送アームやコンベアにより移動する際、充填ヘッドからキャッパー、そしてシーマへと向かう間の距離・時間もDOピックアップに関わる重要なポイントだ。これまで何度も指摘してきたように、この移動の間、缶上面が外気に触れてしまうのは避けられない。缶内のビールが適度な圧力を維持して、その結果液面上に泡を作っていれば外気が缶内に入り込むことはない。また上面の泡は缶内の余分なCO2を外に排出する目的もある。これを缶の"burping"すなわち「ゲップ」と呼ぶ。移動距離・時間があまりに短ければ缶内のビールからしっかりした泡が缶上面に向かって形成されず、ゲップがおきずに缶の内圧が高いままになってしまう。こうなるとキャッパーが缶に蓋を被せようとしてもその圧力で弾かれたり、被せた蓋がずれたりする可能性が高くなる。逆に移動距離や時間が長ければ、当然それだけ外気への暴露が多くなるわけだから、DOのピックアップも増大する。

クラフトビール 缶充填 Wild Goose Filling カウボーイクラフトまた、充填した液量が多すぎる場合、缶から一定量のビールが溢れたり、それによって蓋が落ちたり、被せ方が不安定な状態のままシーマに向かった結果、巻締時に金切り音を発生したりする原因になってしまう。また、缶上面まで液体としてのビールが充填できる場合は、そもそも何らかの理由で保護膜としての適度な泡をうまく形成できていない可能性が高い。そうなると缶上面にしっかりとした泡がない状態で蓋が載せられ、缶内に空気・酸素をトラップしたまま巻締が行われてしまう。多くの場合、ブルワーは過少充填を恐れるあまり、多めに充填したがる傾向にあるが、充填過多は上記のような問題を引き起こすだけでなく、吹きこぼれによって一缶当たり15~30ml近いビールを無駄にする原因となってしまう。一方、液面が低い段階で充填を止めてしまえば、当然のことながらその上部に多くの泡を生み出すことになり、結果的に過少充填となってしまう。これがビールの充填が匠の技と言われるゆえんでもある。

もう一つ気をつけるべき点は缶がシーマへと向かう際の動きだ。この動きがギクシャクすればその揺動によって余計な泡が噴き出すことになる。従って、缶をプッシュさせてシーマへと送りこむ移送コンベアが常にスムースに動くよう日頃からメンテナンスしておくことが重要だ。

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また当然のことながら異なるビール・スタイルによってベストな充填や泡の形成の仕方も大きく変化する。ここはやはり経験とコツ、そして培われたカンがものを言うところだ。従ってある程度の試行錯誤を覚悟し、辛抱強く経験を積んで各ビール・スタイルに応じた理想的な充填調整のカンを養ってほしい。その一方でコツが掴めるようになると気が緩み、充填前の調整や充填プロセス開始直後の微調整等が疎かにしてしまいがちだが、目指すべきDOレベルを安定的に達成するために気を抜かないことも同じくらい重要だ。   

⑪巻締め

WG社としては30~45分毎に巻締状態のチェックを推奨している。シーマは充填機の移動や使用に伴って徐々に設定値からズレていくが、それによる影響が出るまでには長い時間が必要だ。それでも30~45分毎に巻締のチェックを推奨する理由は簡単。一日の充填ノルマが終了した後に、巻締不良から缶から液漏れが発生していると気がついても後の祭りだからだ。得たものと言えば徒労と不良品の山。もし君がモバイルカニングをビジネスとしているなら、顧客の大切なビールを大量廃棄処分にしてしまった責任をどう取るだろう?それは即会社存亡の危機を意味してしまう。ぜひぜひ充填作業中の定期的な巻締チェックを心がけてほしい。

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残念ながら、巻締不良は充填メーカーが望む以上の頻度で発生している。そのため、WG社としては毎回の充填プロセスの初めにをテストすることを推奨している。その上で、充填プロセス開始後に缶の巻締状態をチェックし、巻締が正しく行われているかを確認しよう。もちろんこれはDOに関する問題というよりも、缶充填における基本中の基本。たとえ仮に出荷に耐える程度の液漏れだったとしても、巻締不足による缶の不完全密閉はDOの上昇はおろかビールの酸化や異臭の発生など遥かに深刻な品質低下を引き起こす原因となる。この状態で出荷中止できればまだ良いが、気づかず出荷となればその先でのブランド毀損や信用失墜の危険性すらあるからだ。

クラフトビール 缶充填 Wild Goose Filling カウボーイクラフトWG社の製品を購入した場合、どのようにチェックをし調整するかについての情報を提供しているのでそれを役立ててほしい。また、日頃から発生事案や気がついたことについて記録しておくことも重要だ。巻締め状態を確認するための計測方法や、得られたデータが何を意味するのかを理解できる能力も当然求められる。そしてデータを基に、何をどう調整すれば推奨値に収まるようになるか、そのために何をなし何をなすべきではないかを理解しておこう。例えば、二重巻締はそのクォリティの90%が第一巻締ロール、すなわちOPT1で決まってくるが、このことを知っているか知っていないかでトラブル発生時の見当の付け方が大きく異なってくるだろう。巻締状態のチェックにはいくつかの方法がある。WG社はすべての製品に付属品としてマニュアル式マイクロメータを提供している。マイクロメータにより基本的な巻締の状態を確認することが可能だ。より高度な検査機器としてPCベースの顕微鏡付きシーム・インスペクターがある。非常に高価だが、高い精度で検査が可能となる。もちろん、より気軽なものとしていわゆる「投げつけテスト」や「踏みつけテスト」があるが、当然のことながらあまり科学的な分析ではないだろう。   

ベスト・プラクティス〜最善慣行

缶充填における最大の武器は「知ること」。これに尽きる。捉えようとしている現象がどういうものであるかわからなければ、そもそも捉える事自体が出来ない。DOがビールにどのような影響を及ぼすのかをきちんと理解し、判断できるようスタッフを訓練して「官能評価班」を作ろう。メンバー全員が同じ方向を向き、どのようなアロマ・フレーバーをチェックしようとしているのかを意識共有できるようにトレーニングしよう。サンプルは常にブライトから抜き出したばかりのビールを使用し、規定の時間空気に触れさせて酸化させるなど、評価自体いつも同じ環境下で行えるようきちんとコントロールしよう。フレッシュなビールが空気に触れて酸化すると、どの様にそしてどの程度変化するのか、そのベースラインが理解できれば、異常値が出た場合の判断基準となるからだ。 その上で、以下の点を気をつけてベスト・プラクティスを維持してほしい。

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1. 機械的不具合や問題点の洗い出し
DO値が高いと思ったら、まず充填機廻りの不具合やホースの接続、ホースの取り回し等をチェックしよう。

2. ラインのスムースな稼働
充填機が一旦停止した後の再稼働時は必ずDOが高くなるなけでなく、歩留まりも多くなる。

3. 開放したドアや窓からの風の侵入
直感的ではないかもしれないが、密閉した室内に比べて風が出入りする空間では充填機周辺の大気の揺らぎが大きくなり、結果的にDO値も大きく揺らいでしまう。

4. テスト・テスト・テスト!
あたり前のことだがDO検査をしなければDO値を知ることは不可能だ。様々な定点を設けて定期的にテストを行い、常に最新のデータを入手しよう。同一条件で定期的な検査を続ければ、異常値が出た際でもすぐに検出できるからだ。また、差し込みによる総パッケージ内酸素量テストなどは充填プロセス後、できるだけ速やかに行おう。繰り返しになるが、その際もし缶を事前にシェイクするのであれば常にシェイクし、振らないのであればすべての検査において振らないようにするなど、条件を一定にしよう。条件が揃わない状況での計測は計測しないことと同じだ。

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5. サンプルは一部から抜き出すのではなく、抜き出すことが可能な全ての場所から入手しよう
マルチヘッド充填機の場合、どのサンプルがどのヘッドで充填されたものかがわからなければ、どれを調整して良いのかわからない。充填ヘッド毎にサンプルを分け、それぞれのDO値を得るようにしよう。こうすることで具体的かつ実行可能な情報を得ることができる。

6. スタッフ任せの判断にならないよう行動基準を設けて、それに従ってトレーニングしよう
行動基準は必ずしもルールを意味するわけではないこともお忘れなく。ルールとはことなり、行動基準は盲目的に従うものではない。各スタッフが「そもそもなぜそのような基準があるのか?」「その基準を通して達成しようとしているゴールはなんなのか?」といった品質本位の考えができるようにすることが重要だ。行動基準を共有することで充填品質を向上させることはもちろん重要だが、最大の目的はそれを標準化し共有することでシフト間の「品質ブレ」を防ぐことにある。実際のところDOに与える影響はこの種のブレによるものが一番大きい。標準化の役目は「火曜午前のシフト」も、「木曜午後のシフト」も同じ品質で充填ができるようにすることだ。

7. メーカーと緊密に連絡を取りあおう
不具合が起きたときだけではなく、定期的に連絡を取りDOに関する新たな知識をメーカーから吸収しよう

8. テストと被るが、データをきちんと記録し、追跡することでトレンドを見つけ、問題の所在を明らかにできるようにしよう
得られたデータはきちんと記録し、自分だけでなくメンバー全員が共有・理解できるように記録法も共通化しよう。検査はしっかりとするが記録を疎かにしたばかりに、問題が起きた際の対処法を探るのに時間がかかるケースが散見される。ビールスタイル・CO2レベル・ビール温度・ブライトタンク番号・季節・気温・時間帯などなど充填クォリティに関わる要因は数多くある。単に目の前の出たデータだけから原因を見つけるより、以前から多様なデータをきちんと記録をとっておけば、それを見返すことで前回似たようなトラブルが起きた際、原因は何だったのかどう対処したのか、それを手がかりにして問題解決の糸口がつかみやすくなる。

良好とされるDO値

最後に、理想とされるビールのDO値・TPO値を紹介しよう。

  • ブライトタンク内
    • 30ppb以下
  • ブライトタンクから充填機までにおけるDO値増加量
    • +1~10ppb
  • 充填時におけるビール内総DO値
    • 50ppb以下
  • 総パッケージ内酸素量(TPO)
    • 100ppb以下

恐ろしいほど低い数字が並んでいると思われるだろうが、現在クラフト業界ではこれが利用値とされている。もちろん充填時のDO値50ppb以下というのは理想値に近く、これ以下はあまり望めないことを理解してほしい。多くのメーカーが充填時における素晴らしい低DO値を謳っているが、どんな充填機であっても低DO値は達成可能だが、逆にどんな充填機であってもひどいDO値を達成することも可能だということを忘れないように。カタログ値はあくまで「可能な」数値であり、どんな機材であっても努力すればそれに近い値を出すことはできる。問題は、その値を安定的かつ継続的に出せるかだ。商談時、もしセールスが「当社製品は10ppbを達成」といった具体的な数字を持ち出して売り込むようなら、一旦持ち帰って再検討することを個人的にはオススメする。具体個別の数字を出し、あたかもそれが常に達成可能かのような売り込みは決して正直な方法ではないからだ。

前回・今回と最近大流行の缶充填におけるDO値の問題について書いてきた。缶充填はそれまでには考えられなかったような遠方の消費者や様々な顧客へ、丹精込めた自分のビールを届けることを可能にする。しかし、それは逆に一旦手元を離れた自分のビールについて、自分がほとんど品質管理が出来ないことも意味している。自分のビールを少しでも美味しく飲んでもらうため、是非缶による充填についても心を配って欲しい。



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